ヘンリープール・ビスポークトランクショー
フィリップ・パーカー氏インタビュー
2008年10月19日と20日、ホテルオークラ東京にて
英国ヘンリープール社による来日受注会、
ビスポーク・トランクショーが開催されました。
それにあわせて来日していたヘンリープール社取締役の
シニアカッター、フィリップ・パーカー氏に
ヘンリープールにおけるビスポークスーツのお話を伺いました。


Philip Parker(フィリップ・パーカー)
ヘンリープール社・ シニアカッター、ヴァイスチェアマンを経て、現在コンサルタント。
1963年にサヴィル・ロウのテーラー 『サリヴァン・ウーリー』入社。1980年、ヘンリープール社との合併に伴って移籍し、現在に至ります。経験45年のベテラン職人。後進の指導にあたりながら、今もなお現役として世界を飛び回り、サヴィル・ロウ・ビスポークの発展に尽力しています。温厚でユーモア溢れる人柄。世界の顧客から厚い信頼を得ています。


――ヘンリープール社で何を担当しているか、教えてください。

パーカー
シニアカッターという立場にいますが、マネージメントについては、取締役として6代目社長のアンガス・カンディと共に経営面にも携わっています。テーラリングの業務ではカッターとしてお客様の応対、採寸から仮縫いまでを主にやっております。
さらに、カッターだけではなく、階下にワークルームがあるのですが、そこにいる職人達との業務の橋渡しや、海外事業のことも含め、全体的な事業統括を行っております。

――パーカーさんが日本にいらっしゃる時は英国はお留守になりますね(笑)?

パーカー
いえいえ(笑)、私の留守中にはシニアカッターが2名、その下には更にカッターが2名常駐していますので、お客様の対応や業務を全て代行出来るようになっています。ご安心ください。

――さて、200年以上に渡って、歴史に名を残す偉大な人物がヘンリープールで服を誂えてきています。なぜヘンリープールが選ばれるのでしょうか。

パーカー
英国において、ヘンリープールの創業が一番古いというわけではありません。しかし、サヴィル・ロウでは一番最初に開業したテーラーとして、確固たる個性がございます。40を超える各国のロイヤルワラントが証明しているように、ランドマークではありませんが、誰もがサヴィル・ロウに来た時、サヴィル・ロウらしい服を求める時に目指す対象であるというようなことが、それまでの歴史を物語るものではあると思います。
多くの人が、ヘンリープールがサヴィル・ロウで頂点にあるテーラーだと深く理解しているということが大きな理由です。最大では300人以上のテーラーと14人のカッターをかかえるほどのスケールだったこともあり、そういうことが、歴史的に様々な信頼を築く礎になっています。

――ビスポーク・プロセスに於いて、大切だと思うポイントを教えてください。

パーカー
スタイルの面からいうと、ショルダーのかたち、スリーブがどういった付け方であるかとか、きつすぎず、ゆったりすぎることもない、最適な快適性、背中の部分での小手仕事、きちんと余裕をもって腕などが動かしやすくなっているかどうか、ボタンホールやフラワーホール、そういったディティールも含めて、サヴィル・ロウのスタイルがどういうものなのか具現化することが大切です。どこから見てもサヴィル・ロウで作られて、なおかつヘンリープールで作られたものであると表現されているのが一番望ましいことです。

――英国ヘンリープール社のウェブページには日本人顧客に向けてこう書かれています。

This will provide a forum for us to meet our existing clients for
fittings whilst, for new clients, an opportunity to
introduce them to the Henry Poole brand, our heritage of
over 200 years and the individual bespoke process
that is synonymous with the Henry Poole ethos.

『Henry Poole ethos(ヘンリープール・イーソス)』とは、何を意味するのでしょうか。

パーカー
理念を違う言葉に置き換えると、何を信じて業務を行っているか、ということです。全体的にバランスがとれた服であり、よくフィットした上で快適である、それがサヴィル・ロウスタイルを具現化したものであるということです。ショルダー、ジャケットとのバランス、シェイプ、すべてがきれいなバランスをとっていること。何を信じてものづくりをしているかにつながります。
実際の運営面に関しては、顧客との関わりを非常に重要視しています。顧客とずっといい関係を続けていくことがビジネスの発展、さらなるオーダーにつながると考えています。
アンガス・カンディがよく言っているのですが、「顧客は単なる顧客ではない」という言葉を肝に銘じて、より一歩進んだ関係を作っていくということを信念としています。

――1回目、2回目、3回目、というように、繰り返しのオーダーで築き上げていくものなんですね?

パーカー
それは全てにおいて段階というものがあることと同じですね。女性と仲良くなっていく時と同じようなものです(笑)。

――サヴィル・ロウスタイルについてですが、よく聞く『イングリッシュ・ドレープライン』とは、サヴィル・ロウスタイルのことでしょうか?

パーカー
イングリッシュ・ドレープラインという言葉は、英国では使いません。それはむしろ、英国以外の国々で、人々がサヴィル・ロウのスーツを語るときに使われてきた言葉だと思いますが、ドレープはとても大切なことで、フィッティングの際にお客さまにご案内しています。
全体的に細いフラットな服は世に溢れていますが、主に言われているドレープスタイルはサヴィル・ロウスタイルの根幹を為すものの一つ、重要な特徴の一つであると認識しております。サヴィル・ロウスタイルをご存じない方や、初めてサヴィル・ロウに来られる方に、自然にそのスタイルを知っていただき、総合的なサヴィル・ロウスタイルとして理解していただくことに努めています。

――ずっと既製服だけを着てきた男性が初めてヘンリープールでビスポークスーツを誂えるとき、何に注意していますか?

パーカー
最初のご来店がお若い方の場合、ある程度スタイルというものにご自身の考えを持たれている方とそうでない方がいらっしゃいます。例えば、ヘンリープールでオーダーしていただく場合は、イタリアンスタイルをお好みの方にその通りにお作りするということはまずありません。ヘンリープールにはポジションがあり、その背景には文化があります。
もちろん、お客様が社会のなかでどういう生活をされているかということも重要ですが、基本的なこととして、ヘンリープールがご提供しているものを、接客という過程を通じてにお客様に伝えていくことをいつも行っています。
飛び込みで来られる方よりは、ご友人、ご家族のご紹介で来店いただいた方のほうが、ヘンリープールとそのビスポークスーツに関してより深い理解をしめしていただけることが多いですが、段階を踏んで、ご理解を頂けるような接客を行っています。
ただ、ビスポークですから、お客様のご意志を尊重する必要はあります。お話をする上でお客さまの好みをを迅速に見分けるように心がけています。
それから、ベーシックとはこういうものであるとお客様にご提示すると同時に、お客様一人一人の好みを考慮して、ディティール面でもお客さまの好みに合わせるようにしています。
一番重要なことは、可能な限りお客様のご要望にお応えするということです。それは決して忘れてはおりません。

――サヴィル・ロウのスーツは世界から憧れで見られていますね。サヴィル・ロウで誂えたスーツを着ると、自信がみなぎり、外見上でも良く見えると聞きます。いったいどんな魔法が掛けられているんですか?

パーカー
(笑)そうですね…。私は、出張やミーティングで、レストランなど多くの場所に出席したり、様々な機会で色々な服を目にする場合が多いです。ヘンリープールのスーツやジャケットのみではなく、ネクタイやシューズといった全体のスタイリングを含めて、ビスポークという性質上、まずサヴィル・ロウのスーツはどこに着ていっても恥ずかしくないものであるという点が大きな自信を生み出してます。
単なる服ではなく、ストーリーがそこに存在するということです。服を作ったというだけではなく、どういう時にどんな状況で、どういうディティールのものを、どんな話をしながら作った、という自分だけのストーリー。服にまつわる背景や思い出などを、一緒にまとうことになるのです。そういう点がサヴィル・ロウのビスポークスーツの世界なのです。
ある時、私は妻と買い物をしていました。先ほど例に出されたようなお若い方が私のコートを見て賞賛してくださいました。私はすかさず名刺を出しましたが、それを見た彼がビックリして、素晴らしいコートは当然ですね、と(笑)。そんなこともあるように、ビジネスにおいて身なりは大変重要視されているものです。ちょっとした出来事によって話のきっかけにもなり、会話を広げることになったりするのです。

――日本でのトランクショーはいかがでしたか?

パーカー
日本での滞在は今回で2回目になりますが、日本にいることがとても楽しいです。それは、お会いした方やいろいろな事柄がそういう気持ちにさせてくれるのでしょうね。まず言えることは皆さんがとても親切であるということです。しかも礼節を重んじ、礼儀正しい。そういう面からも非常に大好きな国の一つです。今後もぜひ良好な関係を築いていきたいと思っております。


インタビュー
取材:株式会社チクマ・ヘンリープール事務局
2008年10月20日ホテルオークラ東京にて

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